MAIN文豪ストレイドッグス短編

いつも月夜に米の飯

 尾崎紅葉は頭を抱えた。目の前には酔っ払った弟分と、優秀な後輩。チラと彼女のボスの様子をうかがうと、彼はニコニコと微笑ましそうに二人を眺めていた。ちなみにその目は死んでいる。
 彼女は「一大事だ。『いつも頑張っている双黒を慰安するサプライズパーティ』をエリスちゃんと企画したら、中也君がべろんべろんに酔ってしまって手がつけられない。助けて」という首領の電話を受けとんできた。
 勿論、弟分の酒癖の悪さは知っていた。しかしこんなことになるとは予想がつかなかった。オマケに助けを求めた首領はもはや諦めているではないか。
 
「首領!首領命令でこの馬鹿をなんとかしてくださいよ!」とキンキン声で喚く(そんな裏返った声を聞くのは初めてだった)優秀な後輩こと太宰治。
「うるへー」と舌っ足らずに凄みながら太宰にひっついているのは弟分の中原中也。

 ぎゅっと目を瞑る。そして開ける。

「ちょっと!お尻揉まないでよ変態!!」
「分かっちゃいたが、固ェな……いや、この固さが癖になる…のか?」
「変っっ態!!!!!」

 駄目だ。やはり現実だ。尾崎はがっくりと項垂れる。弟分がセクハラをしている事実が受け入れられない。
「……これ中也。正気に戻った時に後悔するのはお前の方じゃぞ」
「ほら姐さんもこう言ってるし、サッサと離れなって」
半ば涙目になりながら必死に中原から離れようとする太宰を見るのは正直愉快だったが、弟分の醜態は見ちゃいられない。尾崎は痛むこめかみを押さえた。

「んーー………おりゃっ!」
「っ?!?!?!」
しかし、中原は何を思ったかじぃっと太宰の顔を見つめ、勢い良く人差し指を突き刺した。どこにって、太宰の胸に。
 太宰は「キャーッ」と、まるで乱暴をされた乙女のような声を出して「何してんの?!」と中原の肩をがっくんがっくんと揺さぶった。
「なにって、てめーのちくびおした」
そう言って中原はけたけたと笑う。

 もう、訳が分からないし、面倒くさいし、放っておいていいんじゃないか?
 尾崎はそう思って、相変わらず太宰の乳首を服の上から的確に押しては笑う中原と、ぎゃあぎゃあ喚く太宰を意識から消去した。なに、最近のわっちは疲れておるからの。あれは白昼夢じゃ。そう言い聞かせ、温くなった緑茶をすする。

「いつもてめーがやってくるから、おかえしだ!」
「ちょっ、君!ここ、衆人環境なのだけど?!」
「このまえてめーそとでやっただろーが」

 尾崎は服の上から太宰の乳首を口に含む中原と、首領と尾崎を気にして汗をだらだらと流す太宰をまるっと無視して、「あ、茶柱」と嬉しそうに微笑んだ。

 今日もポートマフィアは平和だった。

fin.