MAIN文豪ストレイドッグスSS

escape

山の奥には熊がいた。
狸にもいた。野良犬もいたし、野うさぎもいた。夜には蝙蝠が飛び、フクロウが鳴いていた。
そんな場所にその学園はあった。全寮制の学園だった。

中原中也は山奥の暮らしが嫌いだった。真っ白で糊のきいたシャツに赤いリボンの制服が嫌いだった。太宰治は山奥の暮らしは嫌いではなかった。このまま死んでも誰にも知られず、ひっそりと死ねそうだったから。大嫌いな白いシャツと青いリボンの制服も気にならないぐらいだった。

そんな二人はとても仲が悪く、山奥の旧校舎で密会を重ねながら元気に喧嘩をしていた。

100回目の喧嘩をしていた日、ふと、太宰は言った。
「君は、この場所が嫌い?」
中原はムッとした顔で「…手前と同じぐらい」と返す。
「僕も、君がいるせいでこの場所が君と同じぐらい嫌いだよ」
だから逃げよっか、と太宰が言う。
中原はきょとんとした顔をした。

その一ヶ月後、山奥の学園から二人の少年がいなくなった。山火事により旧校舎が崩れ落ちたときに行方不明となった二人だ。

表向きには事故と処理された二人が、その学園が跡形もなくなったと知ったのは、10年後のことだった。