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お使い

何でも好きなものを買ってきなさい、と二人をケーキ屋に送り出したのは、他でもない森だった。
「ちゃんと買ってくるまで帰ってきちゃだめだよ」という言葉に幼い彼らは顔を見合わせて「どうすればいい?」と頭を悩ませる。

「なんだって、森さんは僕たちにケーキを買わせようとするんだ?」というのが太宰。
「どうやってこの社交性ゼロの糞太宰とのお使いを穏便に終わらせらるんだ?」というのが中原。
二人の少年は鼻の頭に皺を寄せムスッとしたままショーケースを覗き込んだ。
「何がいいと思う?」と中原。
「別に」と太宰。
中原はつっけんどんな太宰に苛々しながらも「じゃあ俺が決めるからな」と言った。しかしそれに太宰が待ったをかける。
「森さんが態々僕たちに命じたんだ。何か意図があるはずじゃないか」
「………意図?」
知的に光る太宰の瞳にたじろぎながら、中原は「こいつが言うならば」と口をへの字にさせる。
「森医師のことだからエリスにあげるんだろ」
「だったらここの店じゃなくて別の店に行かせるさ。あっちの通りがお気に入りだもの」
二人はああでもないこうでもないと話し合う。

その様子をショーケースの向こう側、ケーキ屋の店員が小学生のお使いかしらと微笑ましく見ていたことには気付いていなかった。