MAIN文豪ストレイドッグスSS

酢豚パイナップル論争

その少年二人の喧嘩はもはや日常茶飯事だった。だから誰も気にすることはなかった。
ギャンギャンと姦しい声で騒ぎ立てるのも日常茶飯事。砂埃を立てるほどの勢いで追いかけっこをするのも日常茶飯事。
片方の少年が『今日の負け惜しみ中也』などという実にくだらない発行物を配り歩き、もう片方の少年が血眼になって回収に走るのだって、見慣れた光景だった。

岡田は休憩時間にカフェテリアでスマートフォンを弄っていた。ポートマフィアのフロント企業である某企業に勤める岡田の唯一の楽しみはこのカフェテリアでなんちゃらフラペチーノを飲むことだった。
マフィア(準)構成員だってフラペチーノは飲む。これぞギャップというものだ。世の中ギャップこそが人に魅力を与えるものなのだ。岡田は誰に言うでもなく一人フラペチーノを堪能していた。

そんな岡田の後ろで例の少年二人がフラペチーノを飲んでいた。いつも喧嘩ばかりの少年二人だが、喧嘩することもなく大人しくしている。その事自体がなんだか物珍しく、岡田は二人の会話にそっと耳をそばだてた。

「今日の定食の酢豚不味かったよねぇ」
「肉がゴムみてぇで食えたもんじゃねえよな」
「しかも付け合せのスープも味が濃い!」
「いつも味の素かけるだけの手前はスープの味に口出しすんのは違うだろ」
「はあ?」

なるほど。確かに本日の食堂のメニューは不味い酢豚だった。この少年らも食堂使うのだな、と岡田は思う。
彼らは『本部』のエリート様だ。食堂ではなく一食で諭吉の顔が飛ぶような料亭に通いつめているかと思っていた。

二人の少年が苦い顔をしながら黙々と酢豚を食べているところを想像すると、なんだか職場見学に来た学生のようだ。岡田はふふ、と笑う。
その間も少年らの会話は続き、根深い酢豚パイナップル論争に発展していた。

徐々にヒートアップしていく酢豚パイナップル論争に岡田は「そろそろデスクに戻るか」と立ち上がる。
そんな些細なことでも喧嘩するのが子供らしくもある。しかし、これから想定される喧嘩後の見慣れた惨状が彼ららしくもある。

なんだかんだで仲良いよなぁ、だって一緒に食堂行ってるもんなぁ。
そんなことを思いながら岡田はフラペチーノを飲み干した。